人工哺育を経て育ったチンパンジーのファンの近況についてお知らせします。

飼育員

現在、ファンは生まれて2歳3ヶ月を迎えるところです。体重は12kg程になりました。他の大人のチンパンジーと同じメニューの餌をもりもりと食べています。最近では、秋の味覚である柿が好きなようで、美味しそうに頬張っていました。

 

日中は立体活動をよく行い、寝室内に吊してある消防ホースでブラキエーション(腕のみで枝などを掴んで体を振って移動すること)をしたり、ホースを上ったりしています。また、遊び道具であるボールを転がしたり、枝葉を振り回してバラバラにしたりして遊ぶ様子も見られます。

 

チンパンジーは群れで生活する動物で、他個体とのコミュニケーションをとることで社会性や生きていく上での知恵を学びます。群れ入りができない場合は社会性に乏しくなることや交尾・子育てが困難になる可能性が高くなるといわれています。そのため、可能な限り早い段階での群れ入りが大切です。

 

ファンは人工哺育当初、母親であるアンナとの同居を試みたり、保育器に入った状態での顔合わせを行ったり、飼育員が抱いた状態での顔見せを行うなど様々な取り組みを行ってきました。これまでのファンの様子や経過については下記リンクより過去のブログをご覧下さい。

『チンパンジーグログ③』

『チンパンジーブログ④』

『チンパンジーブログ⑥』

『目標』

 

現在はアンナだけではなく、他のチンパンジーとも部屋を隣合わせにして顔合わせを行っています。こちらが顔合わせに使用している部屋です。細かい網越しにお互いが見えるようになっています。

 

 

顔合わせを始めた頃は金網を手で叩いたり、足で蹴ったりとファンを威圧する行動がしばしば見受けられ、他のチンパンジーがファンを中々受け入れてくれない状況でしたが、最近ではファンが金網に近付くと他個体も近寄って、じっと観察したり、指でそっと触ろうとしたりする姿が稀に見られるようになりました。しかし、挨拶行動はまだ見られていません。

 

チンパンジーは群れで社会性を築き、お互いのコミュニケーションを大切にするため、挨拶をしっかりすることが重要です。挨拶が上手くできないと怒られてしまい、群れに受け入れてもらうことが難しくなってしまいます。この挨拶には様々な種類があり、相手にお尻を見せることや抱き合ったり、キスしたりといった行動があります。また、自分より優位な個体に向けて「オウ、オウ、オウ」といった声を発するパントグラントという挨拶もあります。この挨拶行動が顔合わせを進めていく上では重要な判断基準になります。今のところ、お互いの挨拶行動がはっきりと見られない状態で、次の段階には進めない状況です。

 

今後、挨拶行動が確認でき、問題ないと判断できれば、細かい網を取り外し、既存の金網越しでの顔合わせを行っていく予定です。ファンはまだ小さく、力も弱いため、安全面に配慮し、慎重に群れ入りを進めています。進展状況をまた報告をさせていただきたいと思いますので、これからも温かい目で見守っていただけると幸いです。