こんにちは。オランウータンなど担当です。
早いものでオランウータン担当になってから6年ほど経ちましたが、まだまだオランウータンたちが毎日を健康に、楽しく過ごせるよう、私がやらなければいけない課題は山積みだと感じる日々です。
今回はその一つ、メスのスマトラオランウータン、ウランの月経について、紹介します。
↑ウラン
オランウータンも私たちヒトと同様に月経があります。(月経がない動物もいます。)
ウランの場合は、初めての月経が8歳の時で、現在は25日周期で起きています。月経周期を把握するためのトレーニングをしていて、毎日朝と夕方に陰部を見せてもらい、出血のあるなしを確認&記録しているので、飼育員は正確に月経周期を把握できています。
出血は2〜3日ほど続きます。ヒトのように経血が垂れるほど出るという事はあまりなく、毛に軽く血がつく程度で、排尿と共に流される程度です。
ただ、ここ2〜3年ウランが月経の時、辛そうだなと感じることが多くなってきました。出血が起きる前日から、表情が曇ったり、出血が始まった日から起き上がることが出来ず、食欲も落ち、頭を抱えたり、お腹が痛いような仕草などが見られる時がありました。
ウランが辛そうにしているので、何とか和らげてあげたいという気持ちもありましたし、過去に国内の動物園で飼育されていたオランウータンで子宮筋腫や子宮の癌などで死亡したという報告も多くありましたので、何か病気が隠れているのではないかと不安な気持ちもありました。
このような事から、ウランの婦人科系の検査を一度行うことになりました。
と簡単に書きましたが、どうやって検査するのか…?飼育員の私にはどうすれば良いのやら全くわかりません。
人間の場合①婦人科に行く②婦人科の設備が整った病院で③専門の先生に診てもらう
というのが普通でしょうか。
ウランの場合①婦人科には連れて行けないので、動物園で見る?でも、園内の病院に連れて行き検査をするには麻酔をかける?②当園にはオランの婦人科検査を出来るエコーとかない…③当園の獣医師はもちろん動物のスペシャリストだけれど、婦人科の専門はいない…
と課題が山積みです。
動物園関係者のツテを頼りまくったところ、幸運なことに人間の産婦人科の先生で、オランウータンやゴリラなども診たことがあるという先生にウランを診て頂くお願いができました。
また、先生のツテで婦人科用のエコーを貸して頂くことも出来ました。
後は麻酔。今回はオラン舎で麻酔の注射を打ち、ウランを箱に入れて、園内の動物病院に運んだあと、吸入麻酔を行い検査することに決まりました。
課題は麻酔の注射です。痛い、注射は…
トレーニングで何とかします。
①上腕を格子にくっつけじっとする→アルコール消毒→針が刺さってもじっとする これが基本の動作です。
②担当者でなく、普段オラン舎に来ることのない獣医師が来て、①の動作をやっても出来るようにする。
以上の練習を約半年間、ほぼ毎日練習しました。
①は私とウランで、先の潰した針を軽く当てたりするところから始め、②は獣医師に餌の時間に来てもらい人間が2人いることに違和感を持たないようにするところから始めました。
↑左上腕に針を刺す練習
検査本番の日、麻酔下での誤嚥を防ぐため朝から絶食をしなければならず、勘づかれないかと心配でしたが、私と獣医師で針を刺すところまでは成功!
しかし、刺さった針が痛かったことにびっくりしたウランが腕を引いてしまい、麻酔薬を全量入れる事が出来ず…少しだけ、眠そうになり横になったウランに吹き矢で追加の麻酔を入れるという方法で眠ってもらいました。
↑検査の様子
そんなこんなで、今年の2月にウランの婦人科検査を行うことが出来ました。
検査の結果……ウランの生殖器には問題なし。妊娠・出産可能のお墨付きをいただきました。一安心!!
月経時に辛そうなのは、機能性月経困難症(ヒトでは10代くらいの若い人に多い症状)ではないかと診断されました。
これについては、痛み止めを使いながら上手く付き合っていく方法を見つけるという事になり、現在実施中です。
薬の種類、投薬のタイミング、方法など、ウランに効きそうなものを探している最中です。
↑ペレットの入った袋を格子に結び付け、満足げなウラン
ウランの月経痛が少しでも楽になるよう、担当者一同模索していきたいと思います。
ただ、月経が来なければ、痛くも無いわけで…妊娠出来れば済む話しなのかもしれません…こちらも色々チャレンジはしているのですが…この話は長くなりますのでまたの機会に……
オランウータンなど担当より